水理模型実験による河道計画の立案と合意形成
1.目的
中小河川では、土地利用や予算条件などの制約があり、一刻も早い流下能力の向上が望まれながらも、抜本的な改修が早期に行なえない場合が少なくない。
また、改修に際しては沿川にお住まいの皆様方の合意形成も重要な課題である。
島根県出雲市内の支川においても、河道の断面不足により流下能力の向上が切望されていた。
流域全体での治水対策を検討した結果、浸水区域上流端への放水路設置による流出カットを最良案として選定した。
計画規模T=1/10において現川へは現況流下能力見合いの6m3/sを、新設する放水路へは16m3/sを受け持たせるものである。
放水路分流箇所は人家集合地に位置し、家屋移転を極力抑えたかったが、河道が湾曲し斜流状態で流下するため、確実な流量配分、流水の安全な流下、本川への影響抑制などの課題に対して、一般的には河道の法線是正など減勢のための十分な用地を確保する必要があった。
そこで、湾曲部の斜流分水をテーマとした水理模型実験を提案・実施し、水理計算のみでは流況予測が困難な三次元的な局所流について分析を行い、実施設計及び維持管理に必要な知見を得るとともに、合意形成アイテムとしても活用した。
2.実験計画及び模型の製作
模型実験を実施するにあたっては、その目的とする検討項目に対して、必要な現地資料の収集と解析、水理計算、境界条件の検討、現地状況の調査などが重要となる。
これより模型実験の全体計画が作成され、模型製作、検証実験による相似性の検討、本実験での測定、さらに測定資料の解析を行い、必要があれば模型の改造を行って補足実験を行う。
以上の検討から総合して目的に対する結論を導く。
3.実験結果
(1)予備実験(検証実験)
現況河道において、製作模型の相似性と実験計画の妥当性について確認を行った。
相似性については、数値解析結果(不等流計算水位)と模型水位の一致を確認し、三面張りコンクリート流路の模型としての妥当性を判断した。
(実物粗度係数n=0.025 → 模型n=0.017:モルタル表面ブラッシング仕上げ)
また、実績洪水流量を流下させ、再現流況の妥当性も確認した。
放水路開削への問題として、現川が射流状態で流下するため分流部の形状が水面形に影響することが予想された。(射流分水)
(2)原案からの改良実験
流量配分、流水の乗上げ、放水路の流速などに着目し、分流部の平面縦横断形状について改良を重ねて目的を達成した。
4.実験による効果
模型実験場にて住民説明会を開催し、再現した実績洪水時の流況に共感いただき、改修計画内容に信頼を得ることができた。
実施設計及び維持管理への知見を得ることができた。
水理模型実験は分析及び合意形成においても有効であることを実感している。
今後は、実験費用を抑制するためにも数値解析と組合せ、より局所的な範囲となるよう技術を研鑽していく所存である。